FUK 福祉×AI

就労継続支援B型の業務効率化とAI活用の順序

公開
2026-08-21
執筆
株式会社visum
読了目安
6分
就労継続支援B型の業務効率化とAI活用の順序

この記事でわかること

  • 要配慮個人情報という前提
  • 先に着手できる業務の見分け方
  • 個人情報を扱う前に決めること

就労継続支援B型事業所では、支援そのものより記録と書類の作成に時間が取られているという声をよく聞きます。個別支援計画、日々のサービス提供記録、工賃計算、請求データ。いずれも省略できない業務です。

生成AIで効率化を検討する場合、最初に決めるべきは「何に使うか」ではなく「何に使わないか」です。障害に関する情報は要配慮個人情報にあたり、扱いに慎重さが求められるためです。

この記事では、制度上の制約を踏まえたうえで、どこから着手できるかを整理します。

本記事は2026年8月時点の情報に基づきます。個別の運用については、指定権者や専門家にご確認ください。

まず確認する4項目

着手する前に、以下を整理してください。

# 確認項目 判断のポイント
1 どの書類に時間がかかっているか 計測していなければまず記録から
2 その書類に個人情報が含まれるか 含まれるなら扱いを先に決める
3 使うツールと契約プランは何か 個人向けプランのままでよいか
4 利用者の同意の範囲はどうか 外部サービスへの入力が含まれるか

2で止まる事業所が多いはずです。 福祉の書類はほぼすべて個人情報を含みます。ここを整理せずに進めると、後戻りが発生します。

前提:障害に関する情報は要配慮個人情報

通常の個人情報より慎重な扱いが求められます。

個人情報保護法では、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴などを「要配慮個人情報」と定めています。障害に関する情報もこの区分に含まれます。

個別支援計画やサービス提供記録には、障害の状況、支援の内容、体調の様子が記載されます。これらを外部サービスに入力する場合、一般の企業が顧客名を入力するのとは異なる検討が必要になります。

個人情報保護委員会の注意喚起

個人情報保護委員会は2023年6月、生成AIサービスの利用に関する注意喚起を公表しています。

そこでは個人情報取扱事業者に対して、次のように求めています。生成AIに個人情報を含むプロンプトを入力する場合、特定された利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確認すること。

あわせて、提供事業者が当該個人データを機械学習に利用しないことの確認も求めています。

同意書の範囲を確認する

多くの事業所の個人情報利用同意書は、生成AIの利用を想定して作られていないはずです。

サービス提供に必要な範囲での利用、関係機関との情報共有といった記載はあっても、外部のAIサービスへの入力が想定されているケースは稀です。

着手する前に、現在の同意書がどこまでをカバーしているかを確認してください。必要なら見直しが要ります。この判断は法的な検討を含むため、専門家への確認をおすすめします。

個人情報を扱わない業務から始める

最初に着手すべきは、個人情報を含まない業務です。

福祉事業所の事務作業には、利用者情報を含まないものが相当数あります。

業務 個人情報 生成AIとの相性
運営規程・重要事項説明書の作成・更新 含まない 高い
実地指導の準備(必要書類の整理) 書類による 中
工賃向上計画の文書作成 集計値のみ 高い
研修資料・マニュアルの作成 含まない 高い
求人票・事業所紹介文の作成 含まない 高い
補助金・助成金の申請書類の下書き 含まない 高い
個別支援計画の作成 含む 要検討
サービス提供記録 含む 要検討

上4つから始めれば、同意書の問題を回避しながら効果を確認できます。 効果が確認できてから、個人情報を含む業務への拡大を検討する順序が安全です。

制度文書の作成は効果が出やすい

運営規程や重要事項説明書は、法令に沿った定型的な文書です。自治体が様式を公開している場合も多く、記載すべき項目が決まっています。

「この項目に書くべき内容を整理して」といった使い方で、下書きの時間を短縮できます。ただし最終的な内容は必ず人が確認してください。 制度の解釈を誤ると指導の対象になります。

研修資料の作成も向いている

職員向けの研修資料は、個人情報を含まずに作れます。虐待防止研修、身体拘束適正化研修など、実施が義務づけられているものも多く、毎年作る必要があります。

過去の資料を読み込ませて更新する、といった使い方ができます。研修の実施記録の様式づくりにも使えます。年に複数回実施する研修ほど、効果が積み上がります。

補助金の申請書類にも使える

省力化投資補助金の一般型は、補助対象者に社会福祉法人と特定非営利活動法人が含まれます。記録業務や送迎管理を効率化する設備・システムの導入も、要件を満たせば検討対象になります。

申請書類の下書きには利用者情報が不要です。事業計画の文章を整理する用途なら、個人情報の問題を避けて使えます。制度の全体像は障害福祉のDXで扱っています。

ただし補助金の申請書類作成を有償で代行することは、行政書士の独占業務に触れる可能性があります。 自社で作成する分には問題ありませんが、外部への依頼を検討する場合は確認が必要です。

個人情報を含む業務に進む場合

契約プランの見直しが前提になります。

個人向けプランでも、モデルの学習に使わせない設定は可能です。ただしそれだけでは埋まらない差があります。

項目 個人向けプラン 法人向けプラン
モデル学習への利用 設定で無効化できる 既定で対象外
データの保管場所の指定 できない 選べる場合がある
管理者による設定の統制 できない できる
データ処理契約 締結できない 締結できる
退職時のデータ回収 できない できる

社内ルールで「学習をオフにすること」と定めても、実際にオフにしたかを確認する手段が個人向けプランにはありません。 職員が入れ替わる事業所では、この点が実務上の問題になります。

もう一つの論点は、外国にある第三者への提供です。主要な生成AIサービスの提供事業者は海外の企業であり、個人データの移転にあたっては個人情報保護法上の検討が必要になります。

この評価は法的な判断を含むため、当社は断定を避けます。ただし論点として存在すること、そして学習設定とは無関係に残ることは確かです。要配慮個人情報を扱う以上、専門家への確認をおすすめします。

匿名化という選択肢

氏名を伏せ、イニシャルも使わず、記録の内容だけを入力する方法もあります。

ただし少人数の事業所では、属性の組み合わせで個人が特定されうる点に注意が必要です。年齢、障害の状況、通所歴といった情報が揃えば、氏名がなくても誰のことか分かってしまいます。

匿名化すれば安全、と単純には言えません。

また匿名化の作業自体に手間がかかります。記録のたびに氏名を伏せる作業が発生すると、効率化のために始めたはずが逆に手間が増えることになりかねません。

「匿名化して入力する」を運用ルールにする場合、その作業時間も含めて効果を見積もってください。

何から始めるか

順序をまとめます。

  1. どの書類に時間がかかっているかを記録する
  2. その中から個人情報を含まないものを選ぶ
  3. 1つの業務に絞って試す
  4. 効果が確認できたら、契約プランと同意書の整理に進む
  5. その上で個人情報を含む業務を検討する

4を飛ばして5に進まないでください。 福祉事業所にとって、個人情報の取り扱いは事業の信頼そのものに関わります。

1の「記録する」を省略しない

効率化の相談で最も多いのが、どの業務にどれだけ時間がかかっているかを把握していないという状態です。

体感で「記録に時間を取られている」と感じていても、実際に測ると別の業務のほうが長いことがあります。1〜2週間、主な事務作業の所要時間をメモするだけで、優先順位が変わることは珍しくありません。

計測していないと、導入後の効果も判断できません。「楽になった気がする」で終わってしまいます。

職員全員に配らない

もう一つの失敗のかたちです。ツールを契約して全職員のアカウントを作ったものの、特定の職員しか使わない。

福祉の現場は業務の性質上、パソコンに向かう時間が職種によって大きく異なります。サービス管理責任者と生活支援員では、事務作業の量も種類も違います。

まず書類作成の負担が大きい職種に絞って試すほうが、定着します。

当社も就労継続支援B型事業所を運営する事業者として、この順序は運用上の前提にしています。


参考

以下はすべて2026年8月21日に確認しました。制度の解釈については指定権者にご確認ください。

CONSULTATION

自社で同じことができるか、無料で確認できます

株式会社visumは、自社の就労継続支援B型事業所ウェリットで実際にAIを運用しています。記事で触れた進め方が御社の業務に当てはまるかを、現状の作業内容をうかがったうえでお答えします。

無料相談を申し込む

オンライン30分/営業日2日以内に返信